今回の‐Opinion- Educare PLUSでは、「Z世代」とのコミュニケーションに着目し、次世代型人材教育のカタチについて考察してみましょう。前編ではZ世代の特徴や育った環境を知り、世代間ギャップの原因について探ります。
近年、多くの教育担当者からZ世代とのコミュニケーションについて悩んでいる、という声を聞くようになりました。Z世代とは、1990年代後半~2000年代に生まれ、現在の年齢が20歳前後までの若者たちを指す言葉です。主に米国で使用される世代分類の用語ですが、日本の世代分類では1980年代序盤〜後半に生まれた「キレる17歳世代」の下の世代である、「さとり世代」や「コロナ世代」の一部がZ世代にあたります。
日本の人口に対するZ世代の割合はおよそ15%、世界の人口に対するZ世代の割合はおよそ32%。多くの若者が20代半ばまでに労働市場に出ることを考えると、今後Z世代が社会に与える影響はとても大きいと言えるでしょう。Z世代の社会進出により、世代間ギャップの問題もますます大きくなることが予想されます。
まずは、Z世代の特徴を見てみましょう。Z世代の若者には、個性・多様性を活かす力、デジタルリテラシーやネット活用力の高さ、国際感覚に優れ、語学に長けているなど、現代に即した多くの強みがあります。Z世代がもつこれらの強みは、今企業が強化すべき方向性とまさに合致したものであり、彼・彼女らから学ぶことは非常に多くあります。世代間ギャップの問題について考えると同時に、「Z世代の力を活かす」という意識が重要となるでしょう。
Z世代の育て方・活かし方を考えることは、単に新人育成という枠を超えて、企業組織をアップデートする機会にも繋がります。
Z世代がこのような強みを持つ要因としては、彼らが育った社会的背景によるところが大きいと言えます。Z世代が生まれ育った環境は上司世代と大きく異なっており、その背景には社会レベルでの生活や教育の変化があります。経済的豊かさや少子化により、欲しいものは手に入りやすく、サービスされる側としての経験が増えています。また、ネット社会の進化により、エンターテイメントの高度化や自分好みにカスタマイズされた情報に触れやすくなっており、「相手が合わせてくれる」、また、「相手に合わせる」という環境にも慣れています。世界中の人や情報に容易にアクセスできるようになったことも、国際感覚や語学力の向上に寄与しているでしょう。
このように、Z世代は現代に即した多くの強みを持っていますが、世代間ギャップの問題により現在の上司にあたる世代とはコミュニケーションが取りにくい、というのも事実です。それではなぜ世代間ギャップが生じるのでしょうか。
ここでもZ世代が育った社会的背景が要因として挙げられます。特に注目したいのは、彼・彼女らが育った環境では、旧来の組織中心型の職場スタイルにおいて役立っていた、「弱みや課題を克服する体験」や、「叱られ、失敗しながら成長する体験」、「我慢を続けるうちに意味を見出す体験」といった経験が積みにくくなっている点です。これらの経験は、育成担当世代と比べても減少しています。
これは本人の問題ではなく、社会的な変化によってもたらされた構造であり、企業規模や業種を超えて社会共通の傾向となっていることを理解する必要があります。
Z世代が育った教育環境に目を向けてみると、この世代の教育スタイルとして、「個性尊重・非競争」、「安心・安全の強化」、「厳しい指導や強制の減少」が挙げられます。
彼・彼女らは、人と比べず自分らしさを活かすことには長けていますが、安心・安全が担保された環境の中で過ごしており、叱られ、失敗しながら成長する経験をあまり積んでいません。
このような背景から、Z世代の若者は上司世代とは異なる価値観を持っています。「理想の職場・上司像」に関する2011年と2021年のアンケートを比較してみると、この10年間で明らかな変化があったことが分かります。上司世代にとっては理想的だったと思われる要素(1つの目標の共有・鍛え合い・活気・厳しい指導・引っ張るリーダーシップ・情熱)の選択率が下がり、代わりに「個性の尊重・助け合い・一人ひとりへの丁寧な指導・ほめること・傾聴」を職場や上司に求める若者が増えていることが分かります。
また、Z世代が職場に求めることを見てみると、外発的動機(承認・金銭・競争)の選択率が低く、内発的動機(貢献・成長・やりがい・仲間)の選択率が高いことが分かります。
このように、従来とは異なる価値観を持つZ世代の社会進出により、「組織中心」だった職場環境は、「個の尊重と組織目的の両立」を重視する環境へとますますシフトしていくでしょう。
国内企業においても、新たな価値の創造や人材の採用・定着のために、パーパスやWell-beingを重視した取り組みが始まっています。
このような点を踏まえ、教育の現場ではどのような変化が必要なのでしょうか。
まずは、人材を「会社の理想とする型」にはめようとする、これまでの「一律の教育」は変化する必要があります。そして、旧来の組織で行われていた「指揮命令に従わせる」ことよりも、「内発的な動機付け」や「いかにクリエイティビティを発揮させるか」が重要視されるようになるでしょう。
次号の‐Opinion- Educare PLUSでは、Z世代を輝かせる教育について、具体的な例を交えながら考察してみましょう。
個の尊重と組織目的の両立を目指す教育のカタチとは?
Z世代への教育について、具体的な例を交えながら考察します
【著者略歴】
株式会社エデュカーレ 代表取締役 幡地嘉代
衆議院議員秘書、TV局アナウンサー、外資系企業管理職を経て、研修企画会社専属講師となり、独立。現在は、総合人材教育 株式会社エデュカーレ代表取締役として1,500社超(CSソリューション実績、講演・研修含む)、受講者数延べ33万人超えの実績を有する。
情熱溢れるコンサルタントして全国各地にファンを持つ。2012年には、「成果の後ろにリーダーありき」という考えのもと、人を育てる指導者の養成機関である「一般社団法人 人材教育インストラクター協会(略称:EDIA)」を設立し、代表理事に就任。EDIA主催公開講座の開催は30回を超え、企業で活躍する多くのリーダーを輩出している。
【参考文献】
◆竹内 義晴著、Z世代・さとり世代の上司になったら読む本 引っ張ってもついてこない時代の「個性」に寄り添うマネジメント、株式会社翔泳社、2022年5月27日発行
2023年4月発行