今回の‐Opinion- Educare PLUSでは、人が持つ「創造性」について考察し、新しい教育の“カタチ”を探ってみましょう。
「創造性(creativity)」とは、常識にとらわれない発想や工夫で、新しい事象を生み出す能力のことです。VUCA時代(注1)、ウィキッド・プログレム(注2)などが問題視される現代において、変化し続ける状況に柔軟に対応するためには、旧来の組織を一新させるイノベーションが必要となります。そのためには、人材一人ひとりが「創造性」を発揮し、新しい選択肢を作り出す能力を持つことがことが何よりも重要です。デジタルトランスフォーメーションが促進される今後の社会環境においても、AIには代替できないスキルとして、個人の能力としての「創造性」はますます注目されるでしょう。
世界経済フォーラムが毎年発表している、未来の労働市場の展望についてまとめた“The Future of Jobs”(2020年版)においても、日本で今後求められるスキルの第3位に創造性(creativity, originality and initiative)が挙げられています。
(注1)VUCAとは、Volatility(変動性)・Uncertainty(不確実性)・Complexity(複雑性)・Ambiguity(曖昧性)の頭文字を取った造語で、社会やビジネスにとって、未来の予測が難しくなる状況のことを意味する。
(注2)定義することが困難で、ソリューションも明確ではなく、定義しようとしている間に変化してしまうような複雑な問題のこと。デザイン理論家のホルスト・リッテルが提唱した。
人間は、どのような人でも必ず創造性を持っていると言われています。しかし、日常や仕事の場において、誰もがその能力を発揮できるわけではありません。それでは、「創造性」を妨げるものは一体何なのでしょうか。
そこにはまず、「思い込み」という大きな原因があります。
「創造性」という単語を聞いたときに、以下のような考えが浮かんできませんか。
・創造性は、まったく何もない「ゼロ」から生まれる。
・創造性は、天才だけが持つ才能である。
・創造性は、一部の人にしか必要とされない。
これらは、それまで見聞きしてきたことや時代背景などによって生まれる個人の「思い込み」です。この一つ一つの思い込みについて、改めて考察してみましょう。
・創造性は、まったく何もない「ゼロ」から生まれる。
⇒いいえ。実際は、ヒト・コト・モノなど、あらゆるものの「組み合わせ」や「掛け合わせ」から生まれています。新たな技術と既存の製品、異なるサービスの商品同士、新入社員と先輩社員など、あらゆる形での掛け合わせが、創造の源となります。世紀の発明や研究も、この「組み合わせ」や「掛け合わせ」から創造されたものです。
・創造性は、天才だけが持つ才能である。
⇒いいえ。創造性は、限られた人だけがもつ特別なもの、という思い込みがありますが、実際は、様々なものの掛け合わせによって生み出されるものであるため、どこにでも起こり、誰にでも起こせる可能性があります。
・創造性は、一部の人にしか必要とされない。
⇒いいえ。創造性とは、「今までになかった全く新しいものを産み出すこと」、と考えられているために、ルーティーンワークや社内調整などには、創造性が必要とされないのでは、という思い込みがあります。しかし、事務手続きやルールなどのアップデートは常に必要とされるものであり、どのような仕事においても創造性を発揮する場は多くあります。
このように、「創造性」という言葉には、何か特別なものという先入観があり、そのイメージが個人が創造性を発揮することを妨げているのです。しかし、改めて考えてみると、創造性はあらゆるものの「掛け合わせ」から生まれるため、日常的にどこにでも起こりえること、そして常に必要とされていることだと気付きます。
次の原因は、日本の組織環境にあります。旧来より続く日本の組織では、年齢や役職などによる階層意識が強く、個人の意見が「出る杭」とみなされる傾向があります。このような環境においては、「言わないでおこう」という意識が強く働くため、個が持つ創造性が抑圧されてしまいます。また、効率化や生産性を求めるあまり、最短距離でゴールに到達しようとする組織では、過去の成功体験だけを踏襲してしまい、新しいものを取り入れる余裕のない環境となっていることも多いでしょう。
個が創造性を発揮するには、このような環境をアップデートし、常に一人ひとりが何かに疑問を持ち、それを問い続けられるような環境、そして改善のためのアイデアを遺憾なく出し合える土壌を作る必要があります。
それでは、教育の現場で実際に創造性を育てるには、どういった取り組みが必要なのでしょうか。
前述の通り、個が創造性を発揮するには、原因となっている様々な思い込みや固定観念を本人が認識し、多様な視点で物事を捉えられるように考え方変えることが重要となります。
そこで必要となるスキルの一例としては、「アンコンシャス・バイアス・マネジメント」が挙げられます。アンコンシャス・バイアスとは、心理学の概念である「認知バイアス」の一つで、無意識の偏見や思い込みから偏ったモノの見方をしてしまうことです。このバイアスに気付き、対処する能力が「アンコンシャス・バイアス・マネジメント」です。
このスキルを身に付けるためには、体験型研修の実施が有効です。バイアスの存在自体に関するレクチャーのほか、ロールプレイを取り入れたり、実際に問題視された事柄について参加者同士で話し合ったりするなど、まずは他者を介してバイアスの存在に気づき、理解を深めます。どのような時に問題になるかといった具体的なケーススタディーも交えることで、より実践的な内容となります。
次に、多角的に物事を捉えるための「クリティカル・シンキング」の能力も紹介しましょう。クリティカル・シンキングとは、日本語では「批判的思考」という意味を持ち、前例・慣習・思い込みを疑い、物事の本質を見極め、論理的に思考することを指します。
このスキルを身に付けるには、目的の設定方法や検証方法、ロジックツリーやフィッシュボーンチャートのフレームワーク等、専門的な知識をしっかりと身に付けた上で、実践的な研修を行う必要があります。最終的には、現場での応用法を考案し、業務に活かすことで、日常的に思考力を鍛えることが重要です。
いかがでしたでしょうか。「創造性」は、不確実な現代において、必要不可欠な能力です。思い込みや、旧来の体制に捉われることなく個の創造性を育て、イノベーション力を持つ組織体制を目指しましょう。
創造性を生み出す最適な環境とは?後編では、イノベーションをが起こる環境について考察し、新たな教育の“カタチ”を探ります。
【著者略歴】
株式会社エデュカーレ 代表取締役 幡地嘉代
衆議院議員秘書、TV局アナウンサー、外資系企業管理職を経て、研修企画会社専属講師となり、独立。現在は、総合人材教育 株式会社エデュカーレ代表取締役として1,500社超(CSソリューション実績、講演・研修含む)、受講者数延べ33万人超えの実績を有する。
情熱溢れるコンサルタントして全国各地にファンを持つ。2012年には、「成果の後ろにリーダーありき」という考えのもと、人を育てる指導者の養成機関である「一般社団法人 人材教育インストラクター協会(略称:EDIA)」を設立し、代表理事に就任。EDIA主催公開講座の開催は30回を超え、企業で活躍する多くのリーダーを輩出している。
2023年8月発行