今回の‐Opinion- Educare PLUSでは、自己に対する「アウェアネス(気付き)」がもたらす様々なイノベーション作用について考察し、新しい教育のカタチを探ってみましょう。
自己に対する「アウェアネス」とは、つまり、自分の考えや言動、行動について深く省みることで様々な気付きを得る「内省」とも言い換えることができるでしょう。不確実性が高まるVUCA時代、特に組織内のリーダーにとって、アウェアネスを深めることは欠かせない要素となっています。
今なぜ、自己へのアウェアネスが必要とされているのでしょうか。
何が正解なのかが明確で、大量生産が主流だったかつての時代には、多数の部下やメンバーを引っ張るトップダウン型の強いリーダーが求められていました。しかし、消費者のニーズやライフスタイルが多様化・複雑化しており、不確実性が高い現代においては、状況変化を察知しながら、自己の強みや専門性を活かしつつ、「他」を動かす「自分らしい」リーダーシップが求められるようになっています。
このような時代において、指導者の新たな在り方として注目されているのは、「オーセンティック・リーダーシップ」という考え方です。オーセンティック(Authentic)とは、日本語に直訳すると、「本物・真正・確実」などの意味を指す言葉です。オーセンティック・リーダーシップとは、自己の強みや弱みを見極めた上で、自分自身の考えや価値観をもとにリーダーシップを発揮することを指します。自分の強みや弱みを見極め、時には他者に弱みもさらけ出すことが、信頼できる本物のリーダーとなる時代なのです。
また、このオーセンティック・リーダーシップとともに注目されているのが、「シェアード・リーダーシップ」です。これは、チームメンバーそれぞれがリーダーシップを発揮し、リーダーの役割を共有(シェアード/Shared)している組織の状態を指します。一人ひとりが、共通の目的・責任意識を持ち、それぞれのスキルや強みを発揮できる分野で、積極的にチームをリードすることにより、チーム全体のパフォーマンスを高めることができます。1人のリーダーに情報・判断・権限が集中する、かつての垂直的なリーダーシップとは全く異なる概念です。
このように、リーダーだけでなく、メンバー一人ひとりにもリーダーシップが求められる時代では、どのような立場の人も、自己を深く知るためのアウェアネスが重要となるでしょう。
自己に対するアウェアネス=自己認識には、「内面的自己認識」と「外面的自己認識」の2つがあります。
「内面的自己認識」は、自分の価値観、情熱、願望、環境への適合、反応(思考、感情、態度、強み、弱みなど)、他者への影響力について、自分自身がいかに明確にとらえているかを表します。
一方、「外面的自己認識」は、「内面的自己認識」で挙げた各要素について、他者が自分をどのように見ているかに関する理解となります。
自己認識に関する研究を行うアメリカの心理学者、ターシャ・ユーリック氏の研究によれば、自分が他者にどう見られているかが分かっている人は、共感力と、他者の視点に立つ能力に長けている、とされています。また、リーダーの自己認識と、リーダーに対する部下などのメンバーの認識が近いほど、両者の関係は良好で、メンバーはリーダーに満足を感じ、リーダーを有能視する傾向にある、という研究結果もあります。
このような研究結果をもとに導き出されたのが、リーダーシップの4つの原型です。下の表からも分かる通り、より良いリーダーシップを発揮するためには、「内面的自己認識」と「外面的自己認識」のバランスを保つことが重要です。このバランスが取れておらず、外面的自己認識が少ない場合、自己の過剰評価や過小評価が起きてしまうのです。
それでは、アウェアネスを深め、効率的に自己を知るには、どのような取り組みが必要なのでしょうか。
まずは「内面的自己認識」に注目してみましょう。内面的自己へのアウェアネスを得るには、前述の「内省」を効果的に実践することが必要です。
米国で組織内戦略やイノベーションの研究を行う、ジアーダ・ディ・ステファノ氏らの調査によると、一日の終わりに15分間、その日に得た教訓を振り返る作業を続けた従業員のグループは、しなかったグループに比べて10日後のパフォーマンスが23%高かった、という研究結果が公表されています。内省によるパフォーマンスの向上効果は明らかですが、多くの社会人は、働くこと、動くことなど、「何かすること」を重要視しているために、静かに自己を見つめる行為である内省をおろそかにしがちです。まずは、意識して内省する時間を確保すること、そして自分に合った内省の方法を見つけることも重要です。
次に、「外面的自己認識」に目を向けてみましょう。自分が周囲にどんな印象を与えているかについては、曖昧な認識しか持っていない人が殆どです。多くの場合、本人の意思と他者が認識しているその人との間には、大きなギャップがあります。これは、心理学用語で「透明性幻想(Illusionoftransparency)」と言われる状態であり、他人は自分のことを実際以上によく知っている、あるいは逆に、自分は他人のことを実際以上によく知っていると思い込んでしまう現象です。
このギャップを解消するために効果的なのは、他者からのフィードバックです。自分について周囲の人々がどのような印象を持っているかについて、フィードバックを通じて知ることで、自分のどの点は問題がなく、どの点を直さなくてはならないか、というとても貴重なアウェアネスを得ることになります。
ここで重要なのは、このフィードバックでは、仕事のパフォーマンスに関するものだけでなく、自分の性格や態度など、自己に対する本質的な部分についての情報を受け取ることです。仕事とプライベートの両方の領域で、本人に対する多面的な情報を持つメンバーなど、信頼できる他者から本音を引き出すことができると良いでしょう。
このフィードバックを得た後は、自己の認識と他者からの印象が違った場合、自己の認識により近い人物像に近づくよう、日々の行動を注視し、変えていくとが必要です。この行動変容により、透明性幻想によるギャップが解消され、相手に自分の自己認識に合った印象を与えることができるのです。
いかがでしたでしょうか。自己に対するアウェアネスは、リーダーだけでなく、メンバー一人ひとりの個の成長を促す重要なキーワードです。内省やフィードバックなどを積極的に行いアウェアネスを深めることで、新たな自分を発見し、自己の成長へと繋げましょう。
後編では、「内面的自己認識」と「外面的自己認識」を深める具体的な方法について考察し、新たな教育のカタチを探ります。
【著者略歴】
株式会社エデュカーレ 代表取締役 幡地嘉代
衆議院議員秘書、TV局アナウンサー、外資系企業管理職を経て、研修企画会社専属講師となり、独立。現在は、総合人材教育 株式会社エデュカーレ代表取締役として1,500社超(CSソリューション実績、講演・研修含む)、受講者数延べ33万人超えの実績を有する。
情熱溢れるコンサルタントして全国各地にファンを持つ。2012年には、「成果の後ろにリーダーありき」という考えのもと、人を育てる指導者の養成機関である「一般社団法人 人材教育インストラクター協会(略称:EDIA)」を設立し、代表理事に就任。EDIA主催公開講座の開催は30回を超え、企業で活躍する多くのリーダーを輩出している。
【参考文献】
◆ハーバード・ビジネス・レビュー編集部編、DIAMONDハーバード・ビジネス・レビュー編集部訳、セルフ・アウェアネス、ダイヤモンド社、2019年8月7日発行
2023年12月発行