今回のOpinion- Educare PLUSでは、物事の見方を変える思考法である「メタ思考」について考察し、新しい教育のカタチを探ってみましょう。
昨今の販売の現場では、人手不足のために教育にまで手が回らず、「自分の業務で精一杯」な状態だ、というお悩みをよく耳にします。こういった困難な状況の中で、現場のメンバー一人ひとりが、自分の業務をこなし、さらに周りに配慮しながら活躍するためには、どういった視点が必要なのでしょうか。
重要となるのは、「視座(しざ)」というキーワードです。視座とは、物事を見るときの立場や姿勢のことを指します。この、視座について、「視点・視野・視座」の3つの側面から考えてみましょう。
まず、「視点」は、何かの事実(出来事、事象)が発生したとき、その事実の「どの部分を見るか」、を指します。つまり、視点を変えることによって解釈が変わります。視点は、「少ないか、多いか」で評価することができるものです。
次に、「視野」は、物事を見る範囲や観点、考え方の幅を指します。これは、「広いか、狭いか」で評価することができるでしょう。
最後に、「視座」は、問題や事象を捉える立場や観点を指します。これは、「高いか、低いか」で図ることができます。
視点は、点、視野は点の繋がりとしての面、そして視座は高低を指しており、全ては繋がっている概念として捉えることができます。
今回注目するのは、その中の「視座」です。視座は、その高低を図りますが、高い視座だけを持っているのでは、現場の細かい事象にまで目が行き届きません。ビジネスにおいては、現場の小さな変化は上層部の経営レベルでも影響力があることを把握し、その時の立場によって、視座の高低をコントロールすることが重要です。
それでは、実際にはどうすれば視座の高低をコントロールすることができるのでしょうか。ここで紹介したいのは、視座を高めるための「メタ思考」という思考法です。
メタ思考とは、物事を一つ上の客観的な視点から眺め、物事をより本質的に考えることです。メタ思考を使って物事を考えることで、自分の思考プロセス、行動パターンや周りの状況を客観的に見つめ直すことができます。そうすることで、効果的な問題解決の方法を見つけ出し、より迅速、かつ効率的に解決策を導くことができます。また、あらゆる立場のメンバーに寄り添って考えることができるため、信頼関係の構築にも繋がるでしょう。
逆に、メタ思考ができていない人は、物事を高い位置から見ることができないため、自分の周りに壁ができてしまい、主観的なバイアスや誤解に陥りやすくなるため、効果的な意思決定ができません。
上図:メタ思考ができていない人
下図:メタ思考ができている人
このメタ思考について、より現場での実践に即した形で考えてみましょう。効果的にメタ思考を行うには、まず、自分の立場や現在の業務を、①立場軸、②時間軸、③目的軸の、3つの軸に分け、多面的に考察することが重要です。
①立場軸では、現場における自分の役割、つまり、「店長」や「販売スタッフ」、などの立場に立った時、直接的にはどういった人々と関係があるか、そして、その先にいる、間接的に関わりがある人たちはどういった人なのか、思考を拡張して考えていきます。
例えば、自分が「販売スタッフ」だとしたら、直接的に関係がある人は「店長」や「その他の販売スタッフ」、「お客様」などでしょう。それでは、その先にいる、間接的に関係のある人はどうでしょうか。店長とやり取りする「本社の担当者」やその先の「本社の経営者」、「仕入れ先の担当者」や「仕入れ先の経営者」、商品を実際に使用するお客様の「ご家族」、など、様々な人が関係していることを構造的に把握できます。ここで把握した様々な人の立場に立って物事を考えることが、メタ思考の考え方です。
次に、②時間軸を考える際には、今日、明日、1週間後、1か月後、1年後・・・といったように、時間の長短を捉えます。今やっている業務が滞ると、明日はどういったことが起こるでしょう。1週間後は、1か月後は、、そして大きくは10年後まで、思考を拡張して考えてみます。
例えば、今、「雑務に追われて良い接客ができない」ことが、1か月後には「顧客が離れてしまう」ことに繋がり、1年後には「ブランドの価値が下がってしまい」、10年後には「業界自体の活気が無くなってしまう」など、小さいと思われることでも、10年の時間軸をもって考えると大きな影響力を持っていることが分かります。
①立場軸、②時間軸を、メタ思考を用い拡張して考えることで、③目的軸はおのずと拡張されていきます。
例えば、10年後の業界の活気が下がってしまうことを防ぐために、 今できることは何か、という経営者の目線で目的を捉えることができるのです。
その他にも、「メタ思考」を持つには、前号で紹介した内面的自己認識・外面的自己認識を用いたアウェアネス(※-Opinion-Educare Plus vol.10参照)を得ることも効果的です。
また、日本の大手企業でも活用されている「なぜなぜ分析(※注)」の過程も、メタ思考の一形態として捉えることができるでしょう。
(注)「なぜなぜ分析」とは、問題解決や課題解決の手法の一つであり、問題の根本原因を明らかにするために、繰り返し「なぜ?」という問いを立て、その答えを追及していく方法。なぜなぜ分析を行うことで、問題や課題を客観視しながら根本原因を追及し、それを改善するための具体的な対策を見つけることができる。
研修で取り入れる際には、思考を拡張するためのワークとして実際に自分の業務を取り巻く構造図を描いてみることや、上司、部下の視点を経験することができる「部課長ゲーム」などを取り入れ、様々な立場からの視点を学ぶことも効果的でしょう。
いかがでしたでしょうか。視座が変わると物の見え方が変わります。物の見え方が変わると、今抱えている問題の解決の糸口もすぐに見つかるかもしれません。視座をコントロールし、困難な状況でも迅速に解決策を導き出せるチームを作りましょう。
「モノ」ではなく「コト」を売る時代。お客様とともに本当の価値を引き出す接客法について考察し、新たな教育の“カタチ”を探ります。
【著者略歴】
株式会社エデュカーレ 代表取締役 幡地嘉代
衆議院議員秘書、TV局アナウンサー、外資系企業管理職を経て、研修企画会社専属講師となり、独立。現在は、総合人材教育 株式会社エデュカーレ代表取締役として1,600社超(CSソリューション実績、講演・研修含む)、受講者数延べ33万人超えの実績を有する。
情熱溢れるコンサルタントして全国各地にファンを持つ。2012年には、「成果の後ろにリーダーありき」という考えのもと、人を育てる指導者の養成機関である「一般社団法人 人材教育インストラクター協会(略称:EDIA)」を設立し、代表理事に就任。EDIA主催公開講座の開催は30回を超え、企業で活躍する多くのリーダーを輩出している。
2024年3月発行