ご好評いただいております人材教育コラム-Opinion- Educare PLUSに加え、研究チーム「グロースラボ」メンバーによるフィールド実践コラムの連載がスタートします。
教育現場の「今、知りたい!」にお答えする、より実用的な内容となっておりますので、是非ご一読下さい。
※当コラムは、-Opinion- Educare PLUSの特別版として不定期にお届けします。
近年、アパレルや飲食などに限らず、すべての業界は急速に変化しています。テクノロジーの進化や消費者の価値観の多様化に伴い、従来のビジネスモデルは再考を迫られています。このような背景から、企業はより顧客中心のアプローチを採用する必要があります。
そこで注目されるのが「サービス・ドミナント・ロジック」という考え方です。
サービス・ドミナント・ロジック(Service-Dominant Logic、SDL)は、ビジネスに新たな視点を提供する理論です。従来の製品や商品中心の理論(グッズ・ドミナント・ロジック:Goods-Dominant Logic、GDL )は、製品そのものの価値に焦点を当てるのに対し、SDLはサービスを中心に据え、価値は顧客との相互作用を通じて共創されると考えます。この理論の核心は、「すべてのビジネスはサービスであり、価値は共創される」という点にあります。
SDLの概念は、小売・流通業界においても有効です。これらの業界では、製品やサービスの提供だけでなく、顧客との関係性が重要となることがコアな考え方であるためです。そのSDLの主要なポイントと、具体的な活用事例について解説します。
SDLでは、価値は企業が単独で創出するものではなく、顧客との相互作用を通じて共に創り出されます。例えば、顧客の意見を基に商品やサービスを改善することで、顧客価値が高まります。これは、顧客が積極的にサービスや商品の開発プロセスに関与することを前提としています。 このように、SDLでは、企業・顧客・パートナー・サプライヤーなどが一体となって価値を共創するシステムや仕組みが重要です。各プレイヤーが持つリソースや知識を統合し、最適な価値を提供することで、より豊かなサービス体験が実現します。
一般的なアパレルショップでは、洋服やアクセサリーなどのモノを扱い、接客サービスを提供しているため、顧客との接点が多く、価値共創の実現がイメージしやすい分野です。具体的な例を考えてみましょう。
あるアパレルショップで、顧客一人ひとりに合わせたパーソナライズド・サービスを提供していました。このショップでは、お客様が店舗に訪れると、スタイリストが個別にカウンセリングを行い、お客様の好みやライフスタイルに合わせたコーディネートを提案します。例えば、顧客が特定のアイテムを試着した際に、フィット感やデザインに対する意見を収集し、そのデータを元に商品改良を行います。さらに、顧客が気に入ったアイテムをパーソナライズできるよう、カスタマイズ・オプションを提供することで、自分だけの特別なアイテムを持つ機会を得られ、満足度を向上することができます。
このような価値は、実際に顧客と接点を持ったときに発生しています。その接点における価値の創造を、最適なコミュニケーションを取りながら進めています。もちろん、これまでもこのような接客応対をしている店舗はありますが、SDLの視点から再度考えると違った見方ができるようになります。
SDLを実践するためには、いくつかの重要なステップがあります。その具体的な方法を紹介します。
1. 顧客接点を増やし、顧客との対話を重視する仕組みづくり
まず、顧客のニーズや期待を理解するために、積極的に対話を行い、意見、嗜好を取り入れましょう。例えば、店舗での顧客アンケートや、SNS、接客体験を活用した意見収集が効果的です。顧客とのコミュニケーションを通じて、具体的に何を求めているのかを深く理解することが重要です。
2. 顧客に合わせた柔軟なサービス設計と提供
次に、顧客の多様なニーズに対応するために、柔軟なサービス提供を心がけます。パーソナライズされたサービスや、顧客に向けてカスタマイズされた商品を提供、提案することで、顧客にとっての価値が高まります。
3. 顧客データを活用した組織的アプローチ
組織として、顧客データを活用してパーソナライズされた提案を行うことも重要です。例えば、顧客の購買履歴や現場からのフィードバックを分析し、それに基づいて個別の提案や全社的なプロモーションを行うことで、顧客満足度を高める組織的な仕組みを作ることができます。
SDLは、顧客との価値共創を通じて、新しいビジネスやサービスを実現するためのフレームワークです。顧客との対話を重視し、柔軟なサービス提供を行い、顧客データを活用することで、顧客満足を高めることも可能です。価値共創の意義を理解し、新しいサービス価値を実現することで、より継続的な関係、ビジネスとしての差別化要素も築くことができます。SDLを自社のサービスにも当てはめて考えてみてください。
2024年6月発行