今回の‐Opinion- Educare PLUSでは、「Z世代」に向けた教育について、最新の学習法に基づき考察し、新しい教育のカタチについて考えてみましょう。
前編では、Z世代の若者たちは、育った環境や社会的背景により、上司世代、育成担当世代とは全く異なる価値観を持っていること、それが世代間ギャップに繋がっていることをお伝えしました。
多様性へ深い理解を示し、人と比べることなく個性を重んじるZ世代。彼らは、「会社のため」ではなく、「自分の成長のため」に働き、「自分軸」で物事を捉える傾向があります。Z世代をより輝かせるためには、競争に勝つことや、金銭面などの外発的動機よりも、自分の成長や仲間との関係性などを重んじた内発的動機を高めることが有効です。
教育の現場でも、従来よりも「内発的動機付け」を意識した教育体制が重要となります。このキーワードにポイントを置いた教育とはどのようなものなのでしょうか。
従来の日本企業では、効率的なマネジメント、という観点から、従業員に一律の教育を施し、人材を「会社の型」に合わせる教育スタイルが主軸でした。しかし、会社よりも自分の成長のために働くZ世代の教育においては、従来の一方向に向けた教育スタイルでは、価値観を押し付けられていると感じてしまい、効果的な人材育成には繋がりません。
一方で、eラーニングや近年流行しているMOOCs(注1)などの個人主導型のオンラインでの学習形態については、デジタルネイティブであるZ世代との親和性も高く、利点が多いように見えます。しかし、あくまで個人に委ねられている学習方法であるため、内発的動機付けに繋がらず、最後まで学習しきれない、といったデメリットもあります。
(注1)MOOCs(Massive Open Online Courses)とは、オンラインを通じて海外や遠方の教育機関が提供する講座を受講できる仕組みのこと。2008年頃よりアメリカでスタートし、現在では世界中に広まりつつある。大学レベルの高度な知識を幅広く、かつ一部の例外を除き無料で学べる仕組みであるため、日本企業においても人材育成やキャリア支援に活用しようとする動きもある。
ここで注目したいのは、現在アメリカを中心に流行している新しい学習方法、「コホート型学習」です。
「コホート」とは、主にマーケティング分析において多用される用語で、共通した因子を持ち、観察対象となるグループのことを指します。
「コホート型学習」とは、同じオンラインコースに、「コホート」と呼ばれる学ぶ環境を同じくする学習者同士のグループが同時に参加し、同じペースで学んでいくラーニング手法です。講師はインストラクションやコースの運営を行い、参加者はリアルタイムで発見したことを共有したり、お互いに励まし合ったりしながら学習を進めます。
個人主導型のオンライン学習との相違点は、受動的に学習するだけでなく、リアルタイム性があり、コミュニティが主導するインタラクティブな環境で学ぶことができる点です。また、コホート型学習では、期限や目標が定められており、グループが一体となり、期限を守った上でその目標に向かう必要があるため、「宣言効果」が得られ、オンライン上でありながら目標を達成しやすい環境であると言えるでしょう。
(注2)「宣言効果」とは、心理学用語で、自分の目標を他の人に宣言することで、その目標が達成しやすくなること。自分に良いプレッシャーを与えることで挫折を防ぎ、また、宣言することでその目標に対して意識を向ける機会が増え、目標に向けた行動へのモチベーション維持にも繋がる。
また、従来のオンライン学習のように、一方向に向けた講義ではなく、講師と参加者、また、参加者同士のコミュニケーションも頻繁に行われるため、参加者一人ひとりに説明責任が課され、集中力を欠くことなく、最後まで深い学びを得ることができます。
この学習方法は、オンライン上での「協働学習」とも言えるでしょう。協働学習は、文部科学省が推進するアクティブラーニングの一環であり、チームワークやグループでの活動を推進する学習スタイルのことで、学習意欲の向上や発想力・自信・対人能力などの強化において効果が期待されています。コホート型学習は、この協働学習によって得られる利点と、オンライン学習の利便性の双方を併せ持った、新しい学習スタイルです。
ここで、Z世代育成のキーワードとなる「内発的動機付け」に再度注目してみましょう。「外発的動機付け」と「内発的動機付け」の関係性を理論化した米国の心理学者エドワード・L. デシ(Edward L. Deci)によると、内発的動機付けには、「自律性(autonomy)」「有能感(competence)」「関係性(relatedness)」の3つの心理的欲求を満たすことが有効である、とされています。
「自律性」は自分の行動を自分自身で決めることに対する欲求、「有能感」は自分の能力とその証明に対する欲求、「関係性」は周囲との関係に対する欲求です。
コホート型学習に当てはめてみると、これらの3つの欲求を満たしていることが分かります。コホート型学習では、チームが一体となって(「関係性」)、目標に向け「自律的」に学ぶことが求められ、そして目標を達成した後には「有能感」が得られます。
また、デジタルネイティブであるZ世代にとって、オンライン上で横の繋がりを作ることは得意分野であり、抵抗なくコミュニティに馴染むことができるでしょう。
このように、コホート型学習は、Z世代に向けた内発的動機付けのためのポイントを押さえた学習スタイルと言えます。
いかがでしたでしょうか。Z世代に向けた教育においては、まず、従来の教育体制を見直すことが必要です。世界に目を向けてみると、デジタル化の目覚ましい進歩により、日々新しい学習方法が生み出されています。このような新手法を知り、従来の考えをアップデートすることが、次世代に繋がる学びの第一歩となるのではないでしょうか。
人はなぜ頭が固いのか?その原因を考察し、イノベーションを生み出す教育のカタチについて探ります
【著者略歴】
株式会社エデュカーレ 代表取締役 幡地嘉代
衆議院議員秘書、TV局アナウンサー、外資系企業管理職を経て、研修企画会社専属講師となり、独立。現在は、総合人材教育 株式会社エデュカーレ代表取締役として1,500社超(CSソリューション実績、講演・研修含む)、受講者数延べ33万人超えの実績を有する。
情熱溢れるコンサルタントして全国各地にファンを持つ。2012年には、「成果の後ろにリーダーありき」という考えのもと、人を育てる指導者の養成機関である「一般社団法人 人材教育インストラクター協会(略称:EDIA)」を設立し、代表理事に就任。EDIA主催公開講座の開催は30回を超え、企業で活躍する多くのリーダーを輩出している。
【参考文献】
◆Wes Kao/Maven CEO, “In Online Ed, Content Is No Longer King—Cohorts Are“、June 15, 2021
https://future.com/cohort-based-courses/
2023年6月発行